インタビュー:藤井拓さん日本語翻訳「マネジメント3.0」ついに発売!

7月28日(木)、待望の「マネジメント3.0: 適応力の高いチームを育むための6つの視点」日本語訳書籍が丸善出版より発売されました。
発売前の7月11日、翻訳者の藤井拓さんにどのようなきっかけで翻訳され、今どのようなお気持ちか。過去から現在までのマネジメントの変遷、そして、未来のマネジメントについてお話しをお伺いしました。

今回も圧巻のロングインタビュー、ぜひお楽しみください。

ステファン:本日はお時間いただき、ありがとうございます。

藤井さん:元々ステファンさんのワークショップに参加したのが大きなモチベーションの1つだったので、光栄です。

ステファン:今回ヨーガンからもメッセージがあります。KUDOカードです。

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藤井さん:ありがとうございます。 


出会いとはじまり

ステファン:私たちが最初にお会いしたのは、大阪でしたね。


藤井さん:2018年に大阪で秋元利春さんがアレンジしてくださった1日のワークショップでしたね。その後は2019年に大友聡之さんがアレンジしてくださったワークショップでしたね。

大阪のワークショップの後にManagement 3.0の本を読んだのですが、もう一度ワークショップに参加したいと思い、京都の2日間ワークショップに参加させていただきました。

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翻訳本のあとがきに書いたのですが、ワークショップに参加すると、やっぱり本での知識もあった方がいいなと思ったので、そこからなんとか翻訳できないかなーと真剣に思い始めました。

ステファンManagement 3.0の好きなところはどこですか?

藤井さん:マネジメントの立場になった人がすごく悩むこととか考えることについて系統的に随分説明されているし、あと、現在我々を取り巻く状況が複雑であるということは非常に明快で妥当な説明だと思います。

私たちの社会や組織が複雑系だということに対して、マネージメントとしてどうあるべきかっていうことを正面切って書いた本があまりなかったので、魅力を感じます。

ワークショップに参加してみるとわかりますが、知識と実践の両方が必要で、議論したり、エクササイズを行ったりすることによって、より理解が深まると体感できました。それもすごく良かったなと思います。

ステファン:藤井さんは、ご自身の仕事でManagement 3.0をどのように使っていますか?

藤井さん:残念ながら、私自身は今は使ってないです。

私は3年ほど前にマネジメントを引退しているので、興味はあって翻訳をしているのですが、今の私の興味は、若手のマネジメントの方々と議論できたらなと今期待して活動しています。
きっと、本を読んで異なる意見を持つ方もいらっしゃると思うので、その方たちと議論できたらいいなと思っています。

Management 3.0を好きになったもう1つの理由は、私の若い頃の日本のマネジメント、私はスタッフの立場だったのですが。マネジメントがどうあるべきかを考えていて、

私が若い頃は、80年代で、日本はまだ野中先生等が『知識創造企業』に書かれたように知識創造を行っていた時代でした。私たちもプロジェクトチームにいて、新しいプロダクトを開発していたんですね。

その中で個性が強い人たちが周りにいて、その中のマネージメントあり方によって成果やその所属の雰囲気が全然違うことを目の当たりにしました。自分のプロジェクトではないのですが、周りを見ていて、リーダーの影響はすごく大きいなと感じていました。リーダーの在り方というのが実現できたらと長年思っていて、そのイメージとManagement 3.0の在り方がすごく近いなと感じました。
新しいところもあるし、昔から変わらないものもあるなと思っています。


翻訳の難しさとおもしろさ

ステファン:私は藤井さんに2018年にインタビューしていただきましたね。
その時に本の翻訳をすると聞きました。すごく嬉しかったです。

(2年前のインタビューの様子)

私もまえがきを書かせていただきましたが、本当に感謝しています。
翻訳を終えて、今はどのようなお気持ちですか?

藤井さん:翻訳って難しいですよね。できたからと言って安心できない気持ちですね。

書籍の翻訳ってすごく難しくて、時間をかければかけるほど、日本語としてナチュラルな表現になるのですが、そこまで時間をかけられなくて、原文のテイストもあるので、ヨーガンさんが抽象的に書いていることを日本語で補うというのが翻訳の中でいいことなのか、悪いことなのか悩みがありました。

私がどちらかというと文をあまり補わないタイプなので、割とストレートに訳しているので、それが日本の読者にどう受け取られるか心配ではありますね。それが不親切とか、日本語として不自然とか。そういう意見があるかなとは思っています。

ステファン:英語から日本語への翻訳は時々難しいですね。
例えば、同じ「複雑」でも「complexity」と「complicate」のよう対応する言葉がないなど、ワークショップでもどう伝えるかどうか難しいです。

翻訳のプロセスはどのように行いましたか?

藤井さん:京都のワークショップを受けた後に、私の同僚と一緒に「大阪Management 3.0読書会」を結成して、ちょっとずつ本を読んでいきました。それをやりながら書籍の翻訳も自分で進めたという形になったので、私としては、仲間がいて励まされているという感じでしたね。

メンバーは入れ替わったりしたのですが、途中から中原さんや中原慶さんの同僚の方、羽飼康さんも参加してくれました。中原さんは非常に強力で常任メンバーみたいでしたね。

本に出てくるキーワードとか、複雑系に絡むような、例えば「システムサイエンス」などのような、概念を調べながら、みんなで議論するのがすごく楽しかったですね。
そのように、議論を楽しみながら読書会をやったのが、翻訳の大きな励みになっていましたね。

非常に難しくてちょっと悩んだのは「living system(リビングシステム)」という言葉です。

リビングシステムは日本語に訳すと、生命体、生き物になるんですね。

システム的に言うと必ずしも一つの生き物ではなくて、組織のことも指すので、1つの生命を持つように環境に適応しながら発展していくものをリビングシステムとして捉えているのかなと思っています。

英語の中でもリビングシステムって言葉を解説してるページが少なかったりして、結構何回も探したりしました。結局、英語版の Wikipediaに少し出ていたのですが。

ステファン:翻訳をしようと思ったきっかけは何ですか?

藤井さん:京都のワークショップに参加したことを先程お話ししましたが、ワークショップは基本的なコンセプトを理解したり自分で考えるということに関してはすごくいいんですけども、

ワークショップから戻った時に自分自身がさらに継続的に考えて行く時に、本があるとそういうことがやりやすいかなと思いました。

基礎的なことや概念をもう少し詳しく説明していくようなリソースがあった方がManagement 3.0もう少し理解できるんじゃないか、そういうものがあった方がいいかなと個人的に翻訳を始めました。

ステファン:翻訳を進めるなかで大変だったことはありますか?

藤井さん:意味の捉え方に悩んだ箇所が結構ありましたね。何回も繰り返して読みながらちょっとずつ追い詰めていきました。ゲラ査読者のコメントによって正しい意味にたどり着いた個所もあります。それは楽しかったことでもあり、苦しかったことでもありましたね。

ステファン:どのようにモチベーションを維持しましたか?

藤井さん:モチベーションはあまり努力せずに維持できました。一次訳、一次訳後のレビューなどのステップごとに計画と実績のバーンダウンチャートを書きながら自分でもスピードを設定して、自分をセルフマネジメントしながら翻訳していました。

特に、書籍の刊行を決断して下さった出版社様に対する責任があるので、納期は先方のビジネスに影響するので、遅らせないようにどうしたらいいのか、自分のベロシティーが実際に達成できてるかを見ながら翻訳していきましたね。


Management 3.0を届ける

ステファン:この本は誰に読んでもらいたいですか?


藤井さん:書籍の前書きに、エドワード・ヨードンも若い頃の自分にこの本があったら読みたかったと書いていましたが、私も同じように思いました。

30歳そこそこぐらいだった自分がこの本を読んでたら、さらに参考になったと思うので、30歳前後ぐらいの若手のマネジメント方に読んでいただきたいなと思います。

ステファン:未来のリーダーのような方ですね。
藤井さんはご自身の会社を設立しましたね?次のキャリアにどう結びつくのでしょうか?

藤井さん:はい。個人事業ですが。

退職手前まではビジネスの機会は関東が多かったので、よく出張していたのですが、退職後は、ローカルなコミュニティの中で仕事とか生活していきたいと思っています。
アジャイルやManagement 3.0に関しても、大阪や住まいの近くにどのくらい機会があるかわからないので、キャリアとしては、今、ソーシャルワーカーとして、メンタルヘルスの勉強をしています。

鹿嶋:私も同じようにリタイアする時に、前職の組織のメンバーや社外の研究会のメンバーにもManagement 3.0を伝えていたのですが、そんな時、この日本語の本があったらいいなと思っていました。
若い世代やこれからリーダーになる人向けにManagement 3.0の考え方を届けたいなと思っていたのですが、洋書で、さらに分厚いとなると手にするのがなかなか難しいんですよね…。

藤井さんには、そのような伝えたいんだけどなかなか伝わらない、というようなご経験はありましたか?

藤井さん:私は本が1つの手段になり得ると思っています。

本って知識を深めていくのもたしかにあるのですが、内省のきっかけにもなると思います。
内省していくってことが大事で、内省する時には相手がいることが大事で、相手がいないとなかなか内省できないのですが、この本は内省する相手としては結構いいのではないかと思っています。
本を通して、内省をする方がいらっしゃるのではと期待しています。

とはいえ、一人では読みづらいという方もいらっしゃると思うので、(読書会のように)一緒に本を読むとか、何かできたらなとも思ってます。

そのために『Management 3.0』の要約スライドのようなものを作って、それをSpeaker Deckにアップロードしています。
それをきっかけに、本を読んでちょっと分からないという人や基本的なことを知りたいような人がいたら、そういう人たちと繋がって議論や話をしながら理解のお手伝いができたらなと思います。
私もそういう人の考え方を聞くことによって、学ぶ部分が多いのではないかと期待しています。現実的に、今の人達が直面している問題に対して書籍がどう役に立つかというところですね。

鹿嶋:本当にそうですね。
今はWeb.3.0が出てきているので、テクノロジー、要はHOWじゃなくて、コンセプトを語るにはManagement 3.0が今の時代に求められているところ、そしてエッセンスが届くところのような気がします。いいタイミングで翻訳されているなと感じました。

藤井さん:鹿嶋さんがおっしゃっているように、ギャップはあると思うので、そこをどのように埋めていくかは課題ではありますね。本は敷居が高いといえば高いと思うので、本を手にとって読んでもらうところまでにどのように行き着くかは結構課題ですね。 


Management 3.0を伝える

杉山:この本が発売されたら、今までワークショップを受けられた方にとっては「待望の日本語翻訳本」として手に取られるかなと思います。

一方、全くManagement 3.0をご存知ない方におすすめするとしたら、藤井さんはどのように説明されますか?
キーワードがあると、初めての方も手に取りやすいかなと思いますが、いかがでしょうか?

藤井さん:実は、本を出す時の帯のメッセージとして考えていたのですが、賛否両論あるかもしれないですけど、イノベーションを生み出すような組織を作っていくために、リーダーとしてメンバーとの関わり方、あり方が、どうあるべきかってことを教えてくれる本かなと思っています。

今風に言うとDX(デジタルトランスフォーメーション)と言う言葉に近くなるかもしれませんが、広義に言うとイノベーションとか、イノベーティブなものを作っていくというようになると思います。

帯では直接「自己組織化」という言葉を使っていますね。
自己組織化しているチームと一緒になってチームをイノベーションを生み出していくためのマネジメントスタイルですね。

ただ、「自己組織化」という言葉を聞いたことのない人たちにとっては、馴染みがないので、そこはアジャイルを近くでやってる人たちが突破口になるのかなと思っています。

杉山:2年前、NTTコミュニケーションズ様の新入社員フォローアップ研修をオンラインで行ったのですが、その際、特に人事のご担当の方からは「自己組織化」を分かりやすく説明してほしいとのお話がありました。研修では、学生が経験したことがあるような例として「文化祭」を出して説明しました。

「文化祭って、出し物や担当など、先生が決めるものではなかったですよね」と。自律という言葉は「主体的」という言葉を使ってお話ししました。

藤井さん:私は昔ボーイスカウトの活動を手伝っていたのですが、それも近いですよね。
班を作ってリーダーを育成していくんですけども、リーダーに考えさせていくやり方とか。

関係性がうまくいく場合もあるし、そうでない場合もあります。自己組織化の中での方向性がどうなるかは難しいんですけどね。そういう例が他にも多くあると思いますね。

鹿嶋:エンジニアの方に届けるという話とエンジニアの方がビジネスの方と一緒に作り上げていくみたいな領域に広げていく時にも、共通の考え方として巻き込みやすいアプローチだと思うので、結果的にはその世界が何かって言うのも言語化して、先程のソーシャルワーカーではないですけど、幸せに一緒に働く社会に使えるなぁと思います。

日本の一人一人が、自分たちの目標や夢に向かってやるやり方が、セルフマネジメントかもしれないですが、愛溢れる幸せな従業員から始める組織運営のような、豊かな働き方みたいなのをちょっとだけお裾分けする、そういう世界になっていくとボーイスカウトであり、ソーシャルワーカーであり、ローカルのまちづくりに使えそうな気もしますね。

私たちは無意識にそこに惹かれているのかもしれませんね。

藤井さん:日本も80年代ぐらいまでは、アメリカとかヨーロッパの国々と競争してて、なりふり構わずやっていたんですよね。

90年代になってからは、形にこだわるようになったというか、成功をある程度収めるようになって、リスクも取らなくなったし形式にこだわるようになったところで言うと、80年代以前の、もう少しアグレッシブでいろいろなアイデアを拒まない、もっと柔軟に考えた時代というのは日本の中で復活した方がいいんじゃないかなと思うんです。
当時はもっとおおらかだったのではと思いますね。

鹿嶋:同じ世代がそう感じるんですよね。
その後の時代は、システムで生きてるからみんな違和感なくアジャイルだーってなると思うんですが、back to the basicで家族経営だし、ボーイスカウトだし、その中でリーダーを育ててた社会を再現するにはこんなに複雑なことやってたんだなと思いますよね。

藤井さん:昔は、成長の過程の中で少しずつ学んできた部分がきっとあったのではないかと思うのですが、そこは何か壊れちゃったかなと。成長過程というか、成長させるシステムがなくなってしまったんですよね。

でも、違うのは、昔はとってもブラックだったので、その点は変えるべきだと思うので、違ったやり方でみんなが生き生きと仕事できるような状況を作っていくというのが、
新しいゴールかなと思いますね。

ステファン:いいですね。私もボーイスカウトしようかな。

一同:(笑)!!!!

鹿嶋:クラブ活動、文化祭も全部共通ですもんね。

杉山:お子さんがいる方にとっては、ボーイスカウトは分かりやすい例えかもしれないですね。

藤井さん:ボーイスカウトって入ってみて初めて分かったのですが、教育システムなんですよね。
価値とか原則とかすべてきっちり決めて、指導者の育成も全てシステム化されているところが、一連の教育システムになってるんです。そういうところがすごくおもしろいです。

残念ながら、日本のボーイスカウトの活動は、おそらくコロナの影響もあって、団員数が減ってるのではないかと思います。その状況を教育システムの革新などを通じて克服できればいいなと思っています。

鹿嶋:もしかしたら、私たちは過去の先輩たちが作っていた教育システムのバージョンアップというか、そんな提案にも使えそうな可能性を持っていますね。

藤井さん:それができないと今後の先行き、将来が厳しいんじゃないかと思いますね。


日本のマネジメントの未来

鹿嶋:さっきのリビングシステムの話じゃないですけど、この世界と結びつく生命体、システムに変わっていくので、それが本来の人間が持っている力を引き出すためのシステムですよね。

昔は先輩が指導して根性をつけてガンバリズムとしてやっていましたが、今はその力を引き出して、もっと「楽しい」を大事にして前に進めていくのがいいですよね。

藤井さんからは、何かご質問がありますか?

藤井さん:今後近畿中心に活動を行うということで興味があるのですが、大阪や関西の方のManagement 3.0への関心は高まっていますでしょうか?

ステファン:最近、オンラインワークショップには京都にある企業の方々がグループで参加されました。
7月になって最近はコロナも落ち着いてきたので、これから対面のワークショップも増えていくと思いますから、また大阪、京都、奈良でもやりたいと思います。

鹿嶋:ビジネストレンドをお伝えすると、DXの産業の渦と共にManagement 3.0は普及しているなと思っていて、最近特に伸びたのが、教育とプロフェッショナルサービスですね。

コロナでデジタル化が急務で一気に進みましたよね。少し遅れていたサービスにみんなシフトした感じです。
教育は大体オンラインや e-ラーニングのサービスも伸びていますし、まだまだかもしれないですが、一気に形態を見直したという感じがします。

Management 3.0の研修も今までは対面じゃないとファシリテーターの認定ができなかったのですが、オンラインでもできるようになったりと変わってきましたね。
あらゆる企業が変わってきているので、教育というかコラボレーションの仕方が変わってきている感じがします。

今年の初めに病院の看護師さん向けにもManagement 3.0を含めたリーンチェンジのワークショップを行ったのですが、医療業界の方からもManagement 3.0で何かできないかとお問い合わせがあります。

藤井さん:私の妻も看護師なんです。
病院系はメンタルがきついんですよね。看護師のリーダーでもリベラルな人と保守的な人がいて温度差があるようです。その温度差の中でManagement 3.0みたいな考え方が取り入れられていって、影響が広がっていくと職場が変わったという話が実際に出てきて、波及していくのかもしれないですね。

鹿嶋:本当にそうですね。私たちが何か力になれるのではと思っています。

ステファン:では、最後になりますが、藤井さん、本日はありがとうございました。
藤井さんの話は心に響きました。興味深い話が聞けてすごく嬉しかったです。ありがとうございました。本の出版を楽しみにしています。

鹿嶋:本日はありがとうございました。
藤井さんとゆっくりお話ができて、どういう思いでManagement 3.0に関わってきたのかをうかがえて良い機会でした。あらためてご縁を感じ直したところです。引き続きよろしくお願いいたします。

杉山:私を含め、原書を英語で読むことに抵抗のあった方にとっては、救世主となる本だと思います。待望の書籍、読める日を楽しみにしています。
本日はお会いできて嬉しかったです。ありがとうございました!

藤井さん、貴重なお話をどうもありがとうございました。そして、この度はご出版誠におめでとうございます。
ますますのご活躍をお祈りすると共に、今後も一緒に日本にManagement 3.0を広げていけることを楽しみにしております。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

マネジメント3.0: 適応力の高いチームを育むための6つの視点