書籍『マネジメント3.0:適応力の高いチームを育むための6つの視点』のご紹介

本書は、Jurgen Appeloがアジャイル開発の土台となる自己組織化や奉仕型リーダーシップなどに基づく新たなマネジメントモデル(マネジメント 3.0 モデル)を世界に紹介し、マネジメント 3.0 が世界中に広がるきっかけとなった書籍です。本書では、マネジメント 3.0 モデルの6つの視点を理論面と実践面の両方から解説しており、マネジメント 3.0 の考え方をより深く理解したい方にお薦めの書籍です。本記事では、書籍『マネジメント3.0』を以下のような点で紹介します。

本書の基本情報

  • タイトル:マネジメント3.0
  • サブタイトル:適応力の高いチームを育むための6つの視点
  • 著者名:Jurgen Appelo
  • 翻訳者:藤井 拓
  • 出版社:丸善出版 5,720円(2022/8/4現在、税込み)
  • サイズ:A5サイズ
  • ISBN:978-4621307359

目次

  • 第1章:なぜ物事はそれほど単純ではないのか
  • 第2章:アジャイルソフトウェア開発
  • 第3章:複雑系の理論
  • 第4章:情報-イノベーションシステム
  • 第5章:人々をどのように元気づけるか
  • 第6章:自己組織化の基本
  • 第7章:チームにどのように委任するか
  • 第8章:意図的にリードし、統治する
  • 第9章:制約をどのように揃えるか
  • 第10章:ルール作りの技能
  • 第11章:コンピテンスをどのように育むか
  • 第12章:構造の上のコミュニケーション
  • 第13章:構造をどのように成長させるか
  • 第14章:変革の地形
  • 第15章:すべてをどのように改善するか
  • 第16章:全て間違っているが、いくらかは有用である

本書の内容

第1章-第3章では、マネジメント 3.0 の基礎となる複雑系の科学、アジャイル開発が説明されています。第4章以降は、図 1で表されるマネジメント 3.0 モデルの6つの視点の各々が理論面から説明する章と実践面から説明する章の2章で説明されます。

1 マネジメント3.0モデル(マーティー)
書籍 『Management 3.0』の図を基に作成

以降、マネジメント 3.0の土台になる非線形性、アジャイル開発、複雑系を説明する第1章-第3章と、マネジメント 3.0 モデルの6つの視点の各々を2章で説明する第4章-第15章、最後のまとめである第16章の概要を説明します。

第1章-第3章では、まず因果関係を理解し、それに基づいて将来を予測できるという線形なシステムと、因果関係が明確ではなく、将来の予測が困難だという非線形なシステムの両者が存在することを説明します。システムとは、人間の組織や生命体の群れのように複数の要素の相互作用からなるもので、それらのシステムのうちで非線形でその将来の挙動が困難だというものが複雑系です。我々を取り巻く世界が複雑系であれば、我々の組織もその環境に適応するために複雑系(正確には複雑適応系)でなければならないことを説明します。つまり、上位の指示と統制で動く階層的な組織(マネジメント1.0)ではなく、上位の指示と統制無しに変化に柔軟に適応する組織(マネジメント3.0)にならねばならないということです。加えて、アジャイル開発の概要やシステム科学の発展についても概説しています。

第4章-第5章では、マネジメント3.0の「人々を元気づける」という視点を理論と実践の両面で説明します。ここでは、まず組織が情報を得て、それからイノベーションを生むという「情報-イノベーションシステム」として捉えます。この「情報-イノベーションシステム」は、知識、創造性、モチベーション、多様性、個性という5つの歯車により機能しており、これらの歯車を活性化させることが「人々を元気づける」ということです。書籍では、創造性、モチベーション、多様性、個性の4個の歯車を活性させる方法を理論面と実践面の両面から説明します。

第6章-第7章では、マネジメント3.0の「チームに委任する」という視点を理論と実践の両面で説明します。第6章では、自己組織化というのが自然界でありふれた現象であり、自己組織化するだけでは良いものも悪いものも生み出しうることを説明しています。さらにマネージャーとして自己組織化する組織に委任(エンパワメント)することでメンバーを成長させること、権限移譲のレベルの選択肢、組織に対する委任のレベルについて説明しています。

第8章-第9章では、マネジメント3.0の「制約を揃える」という視点を理論と実践の両面で説明します。自己組織化する組織がより良い成果を生むためのマネジメントの役割が、目指すべき方向性を設定したり、ここだけは守ってほしいという最低限の境界を設定することであることを説明しています。さらに、マネージャーの役割が「育む」、「守る」、「方向づける」ことであることを説明しています。

第10章-第11章では、マネジメント3.0の「コンピテンスを育む」という視点を理論と実践の両面で説明します。ここでは、アジャイル開発では高いコンピテンスが求められるにも関わらずそのことを明示していないことが死角になっていると論じ、コンピテンスを育むための7つオプションを説明しています。また、組織の実務上のルールを、マネジメントから課すのではなく、実務メンバーが自らルールを作ることができるようになることを目指すべきことだということを説明しています。

第12章-第13章では、マネジメント3.0の「構造を成長させる」という視点を理論と実践の両面で説明します。まず、組織のパフォーマンスや適応性を左右するのは、人々のつながりと底を介したコミュニケーションの質です。この2章では、組織の編成の際に考慮すべき、コミュニケーションを媒介する原型(アーキタイプ)について説明し、組織の編成のオプションとしてスペシャリスト中心の機能組織と機能横断的な組織の両方について論じます。さらに、組織間の調整方式のオプションと組織をスケールさせる2つのオプション、スケールアップとスケールアウトについて論じます。

第14章-第15章では、マネジメント3.0の「全てを改善する」という視点を理論と実践の両面で説明します。組織変革は、ビジネス環境の中で自らの適応性を高めるために行うものです。これは、生物が進化の中で自らの遺伝子を変化させることで環境への適応性を高めてきた行為に似ています。この章では、変革による適応性の変化を可視化する適応度地形を紹介し、さらに生物の進化における3つの戦略を組織変革に適用するというアイデアを提案しています。

第16章は、ネタバレになると面白くないので、詳しい内容は読んでのお楽しみですが、マネジメント3.0を完全に伝えることの難しさとそれの克服方法について論じています。

本書に対する激励の言葉とコメント

以下に平鍋さんの激励の言葉と、本書を読み、コメントを寄せて下さった方々のコメントを紹介します。

“この本,まだ訳されていなかったのか!
というくらい,重要な本が日本に紹介されてよかったです.
応援しています.”
平鍋 健児、株式会社 永和システムマネジメント 代表取締役社長

“いわばアジャイルなマネジメントに向けて、複雑性の理論から組織やマネジメントを捉え、自己組織化やモチベーション、成長など多岐にわたり深い考察。チームやシステムを育む庭師の比喩等々示唆に富みUncle Bobの前書きにあるようにマネジメントの職人向きの逸品”
鷲崎 弘宜, 早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部 教授

“アジャイル(ソフトウェア開発)、そして複雑系理論から始まり、人、リーダー、チームそしてルールに触れ、構造の理解とその成長、変革および改善へと至る。著者の執筆に至る最初のインスピレーションとその後の旅とも一致する展開は物語のよう。 各章には経営工学(技術含む)に関わる古典、最新理論、実践から紡いだ語句が所狭しと織り交ぜられており、洋書(英語)ならでは情報密度に圧倒される。しかし、読者を手引きし、導いてくれるような不思議な丁寧さがあり、安心して読み進められる。…“
中谷 公巳, アクシスインターナショナル株式会社 代表取締役社長

参考情報

本書籍紹介のPDF版や書籍の内容を紹介するプレゼン資料をhttps://speakerdeck.com/takufujiiに掲載しています。

参考文献